※もちろんこの物語はフィクションです
妻はどこへ行きたい、何を食べたい、何が欲しい、ということを一切言わなくなった。
聞くとただニコニコしていた。
妻は旅行へ行くのが好きだった。
ここで一緒に写真を撮ろうとよく言っていた。
いつから一緒に写真も撮っていないだろうか。
妻は可愛いキャラクターが好きで、そのポップアップへ行くのが好きだった。
〇〇のポップアップあるんだってと教えても、そうなんだとニコニコするだけだった。
着て行く服がないと騒ぐこともなくなった。
足が血だらけでもヒールの靴を履いてニコニコしていた。
妻はずっとニコニコしていた。
本当の笑顔じゃないことくらい分かっていた。
そして、本当の笑顔を奪ったのは自分かもしれないということも分かっていた。
それでも子どもを作れるかもしれないと考え始めていた。
今の彼女ならきっと子育ても両立してできるだろう。
そんなことを考えていた矢先、妻が職場で倒れたと連絡が入った。
医師からの説明によると、妻は病気が進行していて余命1ヵ月ということだった。
ロボット化計画に参加した女性は、痛みを感じていない訳ではないがその表現ができないそうだ。
なので、痛み止めを投与しながら家に居ながらその時を待つ。
入院することももちろん可能だが、ニコニコして動きたがるので
睡眠薬を投与してずっと眠るようにしておくだけ、ということだった。
ロボット化計画に参加した女性はこういうケースが多いと医師は言った。
自分の体の異変に気付くことができないから、治療できる段階で病院を受診できない。
ロボット化計画でよき妻を得ることに成功した男性たちは、自分と子どもたちだけがこの世に残されることにパニックを起こすことが多いと。
まだ、「お子様がいなくてよかったですね」とこちらを見ずに男性医師は言った。
「これは私の興味本位でこの状況になった方に聞いているのですが、
奥様が逆の状況だったらあなたを男性家事ロボット化計画に参加させたと思いますか?」
妻だったら・・・きっと参加させない。
俺を大切だと、寝てる俺のことを可愛いと撫でていた。
あぁ、俺はそういう大切なことをどうして今まで忘れてしまっていたのだろう。
病院からの帰り道、妻と久しぶりに手を繋いだ。
やわらかくて綺麗な手と記憶していたが
皮がむけているところがたくさんあってゴツゴツした手になっていた。
その夜から妻を抱きしめて眠った。
俺も君が大好きで、大切だよ、と撫でた。
昔の妻なら泣いていただろう。
妻はニコニコと笑っていた。
本当に1ヵ月で妻はいなくなった。
朝起きると俺の腕の中で冷たくなっていた。
彼女はたくさん物を持っていた。
整理するのは大変かと思っていたのに
いざ彼女の部屋のクローゼットをあけると
最近着ていたものなど、本当に少しのものしか残っていなかった。
そこにボイスレコーダーがあった。
再生ボタンを押してみると
「本当にいいんですか?家事ロボットにされるんですよ!?」
「はい、私は怠け者で。
疲れやすいし、PMSや生理痛もひどいし。
家事とかもうまくできなくて。
夫も困ってると思うんです。
私は夫が大切なので・・・だから、夫が望むなら・・・」
おしまい
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